12月2日 ソフィアザール・バロックでの公演用に作成した対訳(第1曲〜第12曲)です。
許可のない二次使用はご遠慮ください。
第一部
1 おやすみ
僕はよそ者としてやって来て
またよそ者として去っていく
あの5月の時は
僕をたくさんの花束で迎えてくれた
娘は僕を愛していると言って
お母さんは結婚のことさえ口にした
今は辺りはこんなにも暗くくすみ
道はすっかり雪で覆われてしまった
僕は旅立つために
時を選ぶことはできない
この暗闇の中で
道さえ自分で見出さなければいけない
月の光に照らされた僕の影は
僕の旅の道ずれ
そして真っ白な草原で
僕は獣道を探すのだ
僕は追い出されそうになるまで
これ以上ここに留まることはない
狂った犬は
飼い主の家の前で吠えさせておこう
愛はさすらいを好むものなんだ
神様がそうされたのだから
愛はさすらいを好むものなんだ
愛しい人よ、おやすみ
君の夢の邪魔になりたくない
君の安らぎの害になるだろうから
僕の足音を聞かせないように
そっと、そっと扉を閉めよう
通りすがりに君の門に
書いておこう “おやすみ” と
それで、君を好きだったことを
君にわかってもらえるように
2 風見
風が風見と戯れている
僕の美しい恋人の家の上で
その時僕の幻想の中でふと思った
風見は口笛でからかっているのだ
哀れな逃亡者を
彼は早く気付くべきだった
家に掲げられた印の意味を
そうしたら決して
探すことは無かっただろう
女の鏡を家の中には
風は屋内で人の心を弄ぶ
屋根の上と同じように
大きな音は出さないけれど
彼らが僕の苦しみなんかを尋ねるものか?
彼らの子は金持ちの花嫁なのだから
3 凍った涙たち
凍った涙が 僕の頬から落ちる
いったい僕は気がつかなかったのか
僕が泣いていた事に?
おお、涙たち 僕の涙たちよ
お前たちは何て生ぬるく
冷え切った朝露のように
凍り固まってしまうのか?
胸の泉からは
熱く燃え立っていたというのに
冬中の氷を
完全に溶かしてしまいそうなほどに
4 氷結
僕は雪の中を虚しく探す
彼女の歩いた跡を求めて
僕の腕にすがり
あてもなく歩いた緑の野原を
僕は地面に口づけする
僕の熱い涙で氷も雪も貫き
地面が見えるようになるまで
どこで僕は花を見つけられるのか
どこで僕は緑の野を見つけられる?
花は消え去ってしまい
芝生もあんなに色あせて見える
僕は思い出の一つさえ
ここから持って行けないのか?
僕の苦しみが黙っていたら
誰が僕に彼女の事を告げてくれるんだ?
僕の心は次第に消えゆき
彼女の姿はその中に冷たく凍りついている
いつか僕の心が再び溶ければ
彼女の姿もまた流れ去ってしまうだろう
5 菩提樹
門の前にある泉のそばに
一本の菩提樹が立っている
僕はその木陰で夢を見た
とても沢山の甘い夢を
僕はその樹に刻んだ
とても沢山の愛の言葉を
嬉しい時も苦しい時も引き寄せられてた
その樹に僕はいつでも
僕は今日彷徨い
真夜中ここを通らなければならなかった
まだ暗かったのに
僕は目をつぶった
するとその枝がざわめいた
まるで僕に呼びかけているかのように
“私のところに来なさい、若者よ
ここであなたは あなたの安らぎを見つけられますよ”
冷たい風が吹き付けてくる
僕の顔めがけて
帽子が僕の頭から飛んで行ったけど
僕は振り返らなかった
今、僕は何時間も
あの場所から遠ざかった
だけど今でもざわめきが聞こえる
“あなたはあそこに
安らぎを見つけられるのに!”
6 溢るる涙
いくつもの涙が 僕の目から
雪の中へと落ちた
冷たい雪片が喉を乾かしたように
熱い悲しみを吸い込んでいく
草たちが新芽を出そうとする時
そこからあたたかな風が吹く
すると氷塊の氷も砕け
そして淡雪も徐々に溶けていくだろう
雪よ お前は僕の願いを知ってる
教えて、お前はどこへ流れていくんだ?
僕の涙たちについていくんだ
じきに小川に流れ出るから
彼らと一緒に街を通り抜けるんだ
賑やかな通りを出たり入ったりして
僕の涙が熱くなったら
そこに僕の恋人の家があるのだ
7 川の上で
お前はあんなにも
楽しげに騒めいていたのに
お前、明るく賑やかな川よ
何と静かにお前はなってしまったんだ
別れの挨拶もしないで
硬く頑丈な氷の皮で
お前は自分を覆い隠してしまった
横たわってる 冷たく動きもせずに
砂地の中に
お前の覆いに僕は刻む
尖った石で
僕の恋人の名前を
そして日時とを
初めて挨拶した日を
僕が立ち去った日を
名前と日付の周りに
割れた指輪を
僕の心よ この小川の中に
お前は僕の姿を見出しているのか
それともこの氷の皮の下で
激しく溢れているとでもいうのか?
8 回顧
僕の両足の裏が焼けているようだ
たしかに氷や雪の上を踏んでいるはずなのに
僕は一息つきたくはない
僕からあの塔たちが見えなくなるまでは
僕は石という石につまずいた
それほど僕は急いで街から出たかった
からすたちが雪玉やあられを投げてきた
家々の上から僕の頭の上へと
なんていう変わり様だ お前の僕への歓迎は
お前、気まぐれな街よ!
お前のピカピカの窓辺で歌っていたのは
競っているヒバリや
ナイチンゲールだったのに
菩提樹の花はまんまると花を咲かせ
清流が明るく音を立てて
そして ああ、2つの娘の瞳が輝いてた
だけどお前に起こってしまったんだ、若者よ!
あの日のことが心に浮かぶ
僕はもう一度 振り返りたい
僕はよろよろとまた戻って行き
彼女の家の前に
そっと立ってみたいんだ
9 鬼火
奥深い岩々の中から
ひとつの鬼火が僕を誘う
僕が出口を見つけることなんて
僕にはどうでも良いことだ
迷うことには慣れてしまった
どの道を行っても
目指すところに行けるものだ
僕らの喜びも 僕らの痛みも
全ては鬼火のお遊びなのさ!
山河の乾いた沢に沿って
静かに僕は下りていく
あらゆる流れが海へと達するように
あらゆる苦悩もまた
その墓へと入るんだ
10 休息
今僕は初めて疲れていることに気づいた
休むために横たわったその時に
旅は僕を元気でいさせてくれる
荒れた道々の上でも
足たちは休息を求めなかった
立ち止まるには寒すぎた
背中は荷物の重さを感じなかったし
嵐は僕を先へとなびかせてくれた
一軒の炭焼きの狭い小屋に
僕は宿を見つけた
だけど僕の手足たちは休めやしない
その傷らがそれほどに痛むのだ
お前もだ、僕の心よ、戦いや嵐の中で
あんなにも激しく あんなにも大胆だったのに
静寂の中で感じてるのか お前の虫が
激しく刺しはじめるのを
11 春の夢
僕は色とりどりの花の夢を見た
ちょうど5月によく咲いているような
僕は緑の草原の夢を見た
楽しそうな鳥の鳴き声のする
すると雄鶏たちが鳴いて
僕の目は覚めた
その時 そこは寒く真っ暗で
大鴉が屋根からわめいていた
しかしあれらの窓ガラスに
誰が葉なんか描いたんだろう?
お前たちは恐らく夢想家を嘲り笑ってるんだ
花を冬に見たのか?って
僕は愛し愛される夢を見た
一人の美しい乙女
愛情 そしてキス
この上ない喜び そして至福
すると雄鶏たちが鳴いて
僕の心は覚めた
今は僕はここに一人座り
そして夢の事を思い出す
僕はまだ目を閉じたけど
まだ心はあたたかく波打っている
いつ窓の葉は緑に染まって
いつ僕は僕の愛しい人を
腕に抱けるのだろう?
12 孤独
一つの重々しい雲が
朗らかな空中を通っていくように
もみの木の梢の中を
くすんだそよ風が吹くとき
僕は僕の道を
鈍い足を引きずり歩く
明るく、とても楽しげな世間の中を
孤独に そして挨拶も無く
ああ!ほんとうに空気は安らかで
ああ!ほんとうに世界は明るい!
嵐たちが荒れ狂っていたときは
僕はこんなにも惨めではなかった