ピアノ曲として知らない人はいないほどの名曲「愛の夢Liebesträume 第3番」。
しかし第3番と言うからには第1、第2があり、さらにはその3曲には基になった歌曲があると言うことはあまり知られていません。
第1番 → Hohe Liebe 高貴な愛
第2番 → Gestorben war ich 私は死んだ
第3番 → O lieb, so lang du lieben kannst おお愛しうる限り愛せ
第1、第2に関してはピアノ曲でもほとんど知られていませんが、この二曲はウーラントの詩に書かれた歌曲が基になり、第3はフライリヒラートの詩による歌曲が基になっています。
僕の解釈では、「高貴な愛」は殉教者としての神への「愛」、「私は死にたい」は恋人、または想いを寄せる人への「愛」、「おお愛しうる限り愛せ」は家族や友など身近な人に対する「愛」、というそれぞれ異なる愛の形をあつかったものだと考えています。
ピアノ曲では3番のみがダントツに知られ、恋愛の「愛」と感じる方も多いかと思います。実際ピアノ曲は歌詞がありませんし、音楽もかなり煌びやかになっていますからその解釈でも良いと思います。が、歌曲の場合はやはり違います。
恋愛は第2番(歌曲は3曲セットになっているわけではないですが便宜上)で描かれていて、それが3曲中一番シンプルな詩、シンプルな曲になっています。他の作曲家ならもっとドラマチックに書くでしょう。イタリアの作曲家なら暑苦しいくらいの情熱的な歌になるかもしれません。
でもそうしないのがリストの素敵さだと思います。
だからこそ、言葉一つ一つが噛み締められるような作品になり、かつこの曲が一番シンプルである事の良さもとても良く現れています。
第1曲目も大変美しい歌曲です。
宗教というものは見方によって色々な姿がありますが、ここにあるのは純粋な信仰心、愛。素晴らしい歌曲だと思います。神の加護に包まれているかのようなピアノも素晴らしいです。
そして第3曲。
これは詩を書いたフライリヒラート本人の思いというものが色濃く現れた詩です。父を若くして亡くし、その時の後悔がそのまま詩になったような作品です。
自分の最も身近にいる人への愛。これは普段多くの人が忘れてしまっている事かもしれません。失ってからでは遅い。そう訴えかけてくれています。
リストの音楽もこの詩に素晴らしい音楽を乗せ、名曲が完成しました。
3月23日の小瀧俊治さんとのジョイントリサイタルではシューマンやシュトラウスの歌曲とともに、久々にこの3曲を歌います。今までよりもう一つ深く掘り下げられたらと思っています。
2018年 3月23日 19:00
sonorium