ヴォルフ「プロメテウス」

僕が学部3年の頃に先生から「やってみろ」と言われ渡された曲。

ゲーテ作詞/フーゴ・ヴォルフ作曲の「プロメテウス」。

ギリシャ神話に登場する巨神。
ティタン神族の子であり、有名な「アトラス」とは兄弟にあたる。

先見の明の持ち主であったプロメテウスは、オリュンポスの神々とティタン神族との戦いの中、その結末を察し、ティタンたちに和解の道を持ちかけます。しかしティタンたちは耳を貸さず、ゼウスらに破れてしまいます。
争いを治めようと奮闘したプロメテウスはゼウスより、人を作る役目を与えられます(諸説有り)。
弟のエピメテウスは全ての動物に、それぞれ能力を分け与えます。しかし、最後にのこった人間に与えるものがもう残っていませんでした。
実はこの兄弟の名前には意味があり、エピメテウスは Epi(後に)+mētheus(考える者)という意味兄のプロメテウスはpro(先に、前に)+ metheus(考える者)という意味。つまりは兄は「先見の明」の持ち主、弟は「後で学ぶ」という意味がある名前を保っていました。「プロ」「エピ」はプロローグ、エピローグという言葉がわかりやすいかと思います。

兄プロメテウスは、困り果てているエピメテウスの代わりに、人のために天から火を盗み、与えます。
これに寄って人間は文明を手に入れます。

ゼウスはプロメテウスの行為に怒り、プロメテウスを高い山に縛り付け、毎日大鷲に彼の肝臓をついばませるという罰を与えました。神であるプロメテウスの肉体は再び再生され、また翌日も、その翌日も大鷲に、という過酷なものでした。後にヘラクレスによって解放されます(これもまたゼウスの意思によるもの)。
この話はアイスキュロスのギリシャ悲劇の中でも描かれています
— プロメテウス三部作:「縛られたプロメテウス」「解放されるプロメテウス」「火を運ぶプロメテウス」(「縛られたプロメテウス」以外の2作は消失)

非常にドラマティックな存在で、様々な芸術家がプロメテウスを題材として取り上げています。
アイスキュロス「縛られたプロメテウス」の古代ギリシャ語の台本をそのまま使用し、オルフがオペラ「プロメテウス」を作曲しています。

ゲーテの詩による「プロメテウス」は、ヴォルフの他にシューベルトも作曲しています。
シューベルトの作品はアリアとチタティーヴォが交互に歌われるような、スケールの大きなものですが、ヴォルフはそれ以上のスケールで描かれています。
ハンス・ホッターの録音が秀逸。オーケストラ版でも色々な人が録音を残しています。

先生も、学生時代先生からもらった曲だそうで、僕も歌こなせるであろう生徒が出来たら、と思っていました。この度昔の教え子が芸大大学院に進むこともあり、今度とあるところで歌うためにこの曲を与えました。

Prometheus プロメテウス   詩:ゲーテ  日本語訳:井上雅人

Bedecke deinen Himmel, Zeus,
Mit Wolkendunst
Und übe, dem Knaben gleich,
Der Disteln köpft,
An Eichen dich und Bergeshöhn;
Mußt mir meine Erde
Doch lassen stehn
Und meine Hütte, die du nicht gebaut,
Und meinen Herd,
Um dessen Glut
Du mich beneidest.

おまえの空を覆うがいい、ゼウスよ 
そしておまえの力を試してみろ
薊の花の首をちぎる子供のように 
おまえの樫の木のそばで、山の頂で!
だが おれの大地はそのままにしておくのだ
おまえが建てたのではない 俺の小屋も
そして その炎のためにおまえが妬んでいる このおれの竃も

Ich kenne nichts Ärmeres
Unter der Sonn als euch, Götter!
Ihr nähret kümmerlich
Von Opfersteuern
Und Gebetshauch
Eure Majestät
Und darbtet, wären
Nicht Kinder und Bettler
Hoffnungsvolle Toren.

おれは 太陽の下で おまえたち神々ほど哀れなものたちを 他に知らぬ!
おまえたちは かろうじて 生贄の貢ぎ物と祈りの吐息とによって
おまえたちの尊厳を養い
もし 子供らや乞食らのような希望に溢れた愚かな者たちがいなければ
惨めなくらしを送ることになるのだ

Da ich ein Kind war,
Nicht wußte, wo aus noch ein,
Kehrt ich mein verirrtes Auge
Zur Sonne, als wenn drüber wär
Ein Ohr, zu hören meine Klage,
Ein Herz wie meins,
Sich des Bedrängten zu erbarmen.

おれが幼かった頃は
何もわからず おれは困惑した目を太陽に向けた
まるで その上に 俺の嘆きを聞き入れてくれる耳と
おれと同じ 苦しむ者を憐れむ心があるかのように ー

Wer half mir
Wider der Titanen Übermut?
Wer rettete vom Tode mich,
Von Sklaverei?
Hast du nicht alles selbst vollendet,
Heilig glühend Herz?
Und glühtest jung und gut,
Betrogen, Rettungsdank
Dem Schlafenden da droben?

だれが おれを高慢なティタンたちとの戦いから 助け出したのか?
だれが おれを奴隷のような暮らしから 死から救い出したのか?
お前自身が全て為し遂げたのではなかったか
神聖に燃えるおれの心よ
そして若々しく 善良に燃えたな?
天上で居眠りをしている者に騙され 救いの感謝を捧げて ー

Ich dich ehren? Wofür?
Hast du die Schmerzen gelindert
Je des Beladenen?
Hast du die Tränen gestillet
Je des Geängsteten?
Hat nicht mich zum Manne geschmiedet
Die allmächtige Zeit
Und das ewige Schicksal,
Meine Herrn und deine?

おれが おまえを敬う? 何のためにだ?
おまえは かつて 苦しむ者の苦痛を和らげたことはあったか?
おまえは かつて 不安におののく者の涙を鎮めた事はあったか?
おれを鍛え上げたのは 全能の時と永遠の運命ではなかったか?
俺の主人であり おまえの主人でもある ー

Wähntest du etwa,
Ich sollte das Leben hassen,
In Wüsten fliehen,
Weil nicht alle
Blütenträume reiften?

おまえは勘違いしているのではないか
おれが人生に嫌気をさして 砂漠にでも逃げ出すだろうなどと
花のような夢が全て実るわけではないからと ー

Hier sitz ich, forme Menschen
Nach meinem Bilde,
Ein Geschlecht, das mir gleich sei,
Zu leiden, zu weinen,
Zu genießen und zu freuen sich,
Und dein nich zu achten,
Wie ich!

おれはここに座り おれの姿をかたどり 人間をつくる
おれと同じような種族を
悩み、泣き、楽しみ、喜び、
そして おまえを敬ったりしない者を
おれと同じように!

Johann Wolfgang von Goethe, 1773

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